File No.009
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Interview:
Tadatomo Oshima
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Photo:
Masahiro Sanbe


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小林 和人さん 『「収集と陳列」男の数奇者ライフ』
Kazuto Kobayashi
Roundabout / OUTBOUND Owner, Suginami-ku, Tokyo
2012.9.26

吉祥寺から少し離れた閑静な住宅街にある小林和人さんのお宅に伺った。玄関先に生い茂った木々の隙間から見えるそのお宅は、外装材に木材を多用した一軒家でまるで山小屋のような佇まいだ。しかし、モルタルの壁が一部存在していることで、ほど良くモダンな印象も感じる。庭先には、使い古された椅子や木のボックス、道具などが無造作に置かれ、家の雰囲気に見事に調和している。

 

小林さんは『Roundabout(ラウンダバウト)』、『OUTBOUND(アウトバウンド)』という温度の異なる2つのお店のオーナー。生活に纏わる様々なアイテムを独自の審美眼で取り揃えた素晴らしいショップ。また最近、自ら執筆・スタイリングまで手掛けた本を出版したり、ライターとして連載も活躍している。イデーでは、3月に発刊した最新カタログでスタイリングを担当してもらい、イデーの新しい世界観を表現してくれた。そんな多忙な中、小林さんはいつもの笑顔で迎えてくれた。奥さまの紀子さんとお子さんの琴子ちゃん、櫂くんの微笑ましい会話を聞きながら、小林さんに仕事の話からお宅のことまで幅広くインタビューした。

 

 

  

  

  

 

 

―友人として昔からお付き合いさせてもらっていますが、今まできちんと仕事の事について聞いたことが無かったので(笑)、改めて現在の仕事を始めたきっかけを教えてください。
 

小林さん)『Roundabout』がある物件との出会いが全てのはじまりです。大学を卒業したのが1999年の春だったのですが、その時は就職先が一つも決まっていない状況でした。

 

―大学では何を専攻していたのですか?

 

小林さん)インテリアデザインです。

 

―大学に入る頃からインテリアデザインに興味があったのですか?

 

小林さん)空間というよりは、家具のデザインに興味がありました。更に遡ると、中学生の時に図書館でルイジ・コラーニの作品集をたまたま知らずに借りて。「何だ、これは。家にあるものと全然違う。」と、あの世界観に衝撃を受けて。デザインというものに興味を抱き始めました。
その当時はまだ最終的な進路を決めきれていなかったので、なんとなく多摩美のインテリアを選んだという感じですね。ただ、大学に入って家具のデザインに集中できると思っていたら実際は建築模型を作ったり、空間を設計する課題ばかりで、すごく嫌だったんです。理由としては、当時まだあったバブルの残り香に必要以上に反応してしまい(笑)。商業空間に対して勝手に距離を感じてしまっていたところが何となくあったからかも知れません。

 

―そうだったんですね。その後、就職活動はしなかったのですか?

 

小林さん)当時、目先の就職先と自分のやりたいことが結びつかない部分があったので結局2カ所ぐらいしか受けなかったんです。その1つが、イデーでした。

 

―一同(笑)。

 

小林さん)新卒を募集していたので試しに受けようかと思って臨んだのですが、想いが足りなかったらしく(笑)。印象的だったのが、黒崎さん(イデーの創設者)が試験を受ける皆にメッセージとして発した「イデーは家具を販売しているけど、編集をしているんだ。」という言葉ですね。編集といったらそれまでは本や映像の分野に限定された考えだという認識だったのですが、店舗の運営そのものを編集するという考えが自分にはとても新鮮でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

―当時、そういう姿勢でやっているインテリアショップってあまり無かったですよね。

 

小林さん)「記念受験」という感覚もなくはなかったのですが、そういう収穫があったのは結構大きかったです。もう一件は惜しかったんですが駄目で。結局決まらないまま卒業して。大学時代の多摩美や武蔵美の仲間もだいたい皆同じ状況で、ポートフォリオを作って、皆で集まっては若者にありがちな「何かやりたいね。」っていう事を話し合ってました(笑)。
そして卒業してまもなく、吉祥寺に1週間限定で使わせてくれる物件があるという話を仲間の1人が持ってきて。それが今の『Roundabout』なんです。内見をしたらあの抜けた空間が良くて、これは絶対何かやりたい、1週間で何をやるかという話し合いをしました。
グループ展をやろうかという話も出たんですけど、内輪だけで終わるんじゃないか、どうせなら不特定多数の人たちと出会うきっかけが欲しいと思って。もともと仲間とやりたいことの1つに店を開くというのがあったので、1週間限定の店をやろうということになりました。準備をはじめて、その時『Roundabout』という名前にしました。

 

―これもずっと聞こうと思っていたのですが、店名の由来は?

 

小林さん)「Junction」とか「Terminal」など、交通の流れを想起させる名前にしたいというイメージがあったのと、簡単な言葉を2つ繋げてあまり聞き慣れない言葉になるのが面白いなと。ミニー・リパートンが在籍していた「Rotary Connection」が良いなと思ったのもあります。意味としても、いろいろなバックグラウンドを持った様々なものや人が交差点みたいに行き交う場所になれば良いなという思いもあり。

 

―なるほどね。「ロータリー・コネクション」懐かしい(笑)。響きも良いですしね。

 

小林さん)そう、語感とその言葉が醸し出すイメージ、そして意味がミックスされて『Roundabout』という名前になって。グラフィックをやっていた仲間が店のオープンのチラシなどをデザインしてスタートしました。
その時は1週間限定だったので井の頭公園でチラシをまいたりして(笑)。メーカーや問屋さんとの取引は当然無かったので、シルクスクリーンでTシャツを刷ったんです。あとは、国内のアメリカンスクールのバザーで海外の中古の生活用品を、救世軍みたいなところでは昔のパタパタ時計なんかを仕入れたり。友達が作ったポストカードや当時まだ珍しかった不織布のつなぎをホームセンターで買ったりもしました(笑)。今考えるとかなりストレンジですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―そのお店、行きたかった(笑)。商品のセレクトは皆で相談して決めたんですか?

 

小林さん)そうですね。大枠は決めつつ、最終的な選定の基準は個人の解釈に委ねられるので、メンバー1人1人の好みが反映されてはいると思うんですけど。具体的に扱っているものは今と違いますが、全方向でいろいろあるという。新しいものと古いもの、国産のものと海外のものがミックスされていたりとか、ノンジャンルという部分だけ今と変わっていない。今後もそこだけは変わっていなければ良いと思っています。

 

―それで1週間やってみて結果はどうでしたか?

 

小林さん)意外と手応えを感じました。その時はガレージセールみたいなイメージで、昔のゲームウォッチがあったり。

 

―『Roundabout』の向かいにある「METEOR(メテオ)」のような(笑)。

 

小林さん)あそこのオーナーの坂上君は、『Roundabout』のオリジナルメンバーです。メテオはブレないですよ。

 

―え、そうだったんですね。でも、あのジャンルはなかなかブレようが無いですけど(笑)。ところであの建物は、キャバレーだったと聞いたことがあるのですが、実際のところは?

 

小林さん)「クラブヨーロー」というキャバレーでした。本当かな?と思っていましたが市役所でお店近辺の昔の地図を調べていたら本当に書いてありました(笑)。その後もいろいろ変遷があって、学習塾の時代もあったり。入居した時は石膏ボードで上まで覆われていたんですよね。照明も蛍光灯で。とにかくお金が無かったので、ペンキを塗るかわりに100円ショップでバケツとスポンジと洗剤を買ってきて薄汚れた壁紙をひたすら磨いて、水洗いして(笑)。工夫と若さゆえの勢いと体力でなんとか乗り切りました。

 

 

 

 

 

 

 

―1週間限定でやった後に、お店をすぐスタートしたんですか?

 
小林さん)本格的にちゃんと借りて、オープンしたのは同じ年の8月ですね。1週間限定の店は5人で始めたんですが、1人は就職、もう1人は留学で一時抜けてしまったので実質的には3人でスタートしました。準備期間中にパサディナのローズボールに中古のポータブルプレイヤーとか買い付けに行って。その時は1960~70年代テイストが強かったかもしれません。あまり時代性を感じないものもありましたけど。「クラシック」というより「レトロ」なものが多かったかもしれないですね。
 

―今のお店のイメージに無いですね。「レトロ」というと懐古趣味的な。

 

小林さん)「レトロ」という言葉はあまり好きじゃなくて。「クラシック」というと新しい解釈ができる余地があると思えるので好きなのですが。ただ最初の買い付けの時は、特定の時代性に振ったようなアイテムが割合としては多かったです。あとは国内のフリーマーケットや救世軍とか。そうこうしているうちに問屋さんとの取引も始まって。お客さんから五反田のTOCビルの現金問屋のことを教わって行くようになりました。「Floor(同ビルの3階にあったカフェ)」ができてからは飲食店向けの厨房用品を卸す会社を教えてもらって、ステンレスのバットなどのアノニマスなものを扱うようになったんです。
当時の店内は買い付けてきた中古家電や、アラン・フレッチャーがデザインしたメラミン樹脂の灰皿など、発色が良い物も少なくなかったので色調としても今とはちょっと違いますね。

 
―お店で扱うアイテムが変わったきっかけは?

 

小林さん)最初は右から左まで自分の好きなものを全部投影しないと駄目だと思っていたのですが、それだと整合性をとるのが難しいので編集が必要だと思ったのと、長い時間にさらされても耐えうるようなものにより魅力を感じるようになってきたというのが強いですね。実践しながら自分の中で確かめていった感じです。店に置いてみて、しばらく自分の中でその状態を体験してみて、こういうのが心地良いかもしれないと思ったら徐々にそちらにシフトして行ったり。トライ&エラーを繰り返すうちに今の状態になりました。
メンバーはそれぞれやりたい方向へと一人づつ別れていって、2000年の5月に1人になりました。今思うと、あれだけのスペースの店を最初から1人でやるのは無理でしたね。一方で1人でやるのが向いているのかなとも思います。
仲間と始められたのも良かったし、結果的に1人になったのも今では良かったと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

―お店をやろうと決心して動くのも勇気がいりますよね。まあ若かったから逆に良かったかもしれないですね。

 

小林さん)そうですね。若くて勢いのある時期に仲間と始められたのは良かった。でも始めるとどうしても、それぞれの方向性の違いも浮かび上がってくる。最後のメンバーが抜けるという時は不安もかなり大きかったですけど、しばらくやってみたら何とかやっていけるかもしれないと思いました。 
 

―そして『OUTBOUND』は、いつスタートさせたのでしょうか?

 

小林さん)そもそもそんなに2店舗目を急いで出そうとは思っていなかったんです。『Roundabout』でやらなければいけない事も山積みでしたし。最初は自宅の物件を探していて、ついでにお世話になっている不動産屋さんに店舗物件もお願いしました。というのも『Roundabout』は、無期限の取り壊し物件だったので、リスク回避じゃないですけど(笑)、万が一取り壊しになってしまった場合も考えてシミュレーションの意味で物件情報も知っておいた方が良いなと思いました。おそらく自分が吉祥寺で求める物件は、2、3年に1件あるかないかだろうと思っていたのですが、数ヶ月後に自宅より先に見つかったんです(笑)。ロケーションは路面店としてかなり理想的でした。
 

―駅から歩いて10分ほどでどちらかというと賑やかなエリアなのに、静かで落ち着いていますよね。

 
小林さん)吉祥寺の街って良い面とそうでない面があって、あまり人通りの激しい場所だと自分が思うようなペースでお店の運営ができないだろうなというのがあって。
きちんと商品を見てくれる人だったら良いんですけど、イヤホンをしたまま来店して、こちらが「いらっしゃいませ」と言っても完全に無視されると心が折れるわけです。だからお店を目掛けて来てくれる場所じゃないと嫌だなと思って。本当に2店舗目をこのタイミングでやるのかかなり悩んだ末、まずやってみようと思って踏み切りました。
『OUTBOUND』を始めたのは2009年なんですけど、日常使いとは言い切れないもの、例えば熊谷幸治さんという土器作家の作品なんですけど、こういうものに興味が出はじめてくるわけです。


―具体的にどういうところに惹かれるのですか?

 

小林さん)純粋に物として魅力を覚えるというのがありますし、「どこが好きですか?」と聞かれてぱっと答えられないところも魅力です。

 

 

 

 

 

 

 

 

―感覚的にビビッと来るというか。

 

小林さん)根源的な欲求とリンクする魅力というか。ひとつひとつ分析していくと、質感に惹かれるとか色が良いとか言えると思うのですが、一番は余白ですね。具体的な機能を持った道具だと、目に見える形で働きかけてくれると思うんですね。便利になったり、何か短時間でできるようになったり。一方でこういったものは具体的な機能は有していないけれど、それがあることによって豊かさや安らぎ、あるいは逆に暮らしの中に適度な緊張感を与えることができるかもしれない。そういうものを醸成してくれる役割というものが確実にあると思います。あとは、ハレとケの間の「ややハレ」の部分に属するような、手仕事の細かさが光るものへの興味も徐々に大きくなってきた頃でした。
『Roundabout』でそれを全部入れ込めばいいのですが、そうすると今度は、元々持っていたかもしれない雑な良さが失われてしまうのではないかと思って。店として整いすぎてしまうのではないかという危惧がありました。大竹伸朗さんが本の中で「雑の領域」という言葉を使っていて、それは、完成しきっていない、判断保留の状態を残したものの良さだと勝手に解釈しているんですけど、『Roundabout』ではそういった切りっぱなしの要素を保っていきたいと思いました。頭の中の引き出しを分ける感じで異なった温度のお店を始めたんです。
よく、「『OUTBOUND』が本当はやりたい事なんでしょう?」と誤解されがちなんですけど、『Roundabout』もひとつの自分にとっての大きな柱なので失いたくない、大事にしたいからこそ『OUTBOUND』を作ったんです。それによって自分の中で物を選ぶ基準が整理できたかもしれないですね。
2つのお店の違いを聞かれたときに例えとして使うのが『Roundabout』が「日記」で、『OUTBOUND』が「手紙」。日記を書くという行為は日常に属する事かもしれませんが、少なくとも自分にとって誰かにあてて手紙を書く事はものすごく日常に寄ったことでもないわけです。日常の一部かもしれないけど、日記を書くテンションとはちょっと違った、背筋を伸ばすような気持ちで臨む行為だと思うんです。それくらいの温度の違いでやりたいと思っています。
『Roundabout』は日常、『OUTBOUND』は日常と地続きの非日常だと思っています。ただ、『Roundabout』にも非日常の要素はあるので(笑)、両方が少しだけミックスされている感じかもしれないです。

 
―『Roundabout』が日常の要素の割合が9割で、『OUTBOUND』は非日常の割合が大きい。そこが繋がっている感じがするのが2つの店の魅力なんでしょうね。
  

小林さん)まさにそうですね、両方のお店に置いているものもあるし、『Roundabout』にも必ずしもデイリーユースと言い切れないものが置いてあるかもしれない。 
 

―そういうコンセプトを基準に、商品選びからディスプレイまで落とし込んでいるんですね。ディスプレイも全部自分で?いつも設営を徹夜でやっていますよね?
 

小林さん)展覧会の前日は夜通しやることになってしまいますね。僕がやらなくても僕のやりたい形に沿った感じでできることが理想ですが、現時点ではなかなか難しくて自分がやることになるんですけど。まあ実際、自分でやるのが好きなんですが。
普段のディスプレイでも日々のものが売れてなくなると崩れたりして、逆に新しいものが入ったときにそれをどう並べるか。なるべくスタッフに任せたいという気持ちと、自分でやりたがる部分とのせめぎ合いで。結局自分でやってしまう事が多いです(笑)。「こうしたい」という脳内のイメージを上手に伝達出来れば理想なんですが、どちらかというと手を動かしながら考えるタイプなので…。
 
 

 

 

 

 

―だったらもう自分でやってしまえって(笑)。わかる気もします。 2つのお店で共通して大切しているディスプレイのポイントはありますか?

 

小林さん)ものの良さが際立つ場所を探すのが自分の役目なので、置いては引いてというのを繰り返して、最適な場所を探す事を大事にしています。
 

 ―場所だけじゃなくて空間が持つ時間もそうですよね。お店に置いて、そのものが一番魅力的に見える場所と時間。自分で選んでいるものだし、お店のことを一番理解しているからわかるんだと思います。

 
小林さん)イデーで昔DJやっていた時はそこが一番できなかった(笑)。とにかく自分たちが聴きたい曲ばかりかけてたから。店内の空気と無関係にインクレディブル・ボンゴ・バンドの 「Apache」を流した途端に大島さんが密かにマスターボリュームをゆっくり下げて…、という攻防が懐かしいです(笑)。


あとは、物を配置する上で『OUTBOUND』は眺める愉しみに重きをおき、『Roundabout』は探す楽しさを大事にしています。『OUTBOUND』は緊張感があってすっきりした空間にしたいですし、『Roundabout』 は何回行っても発見があるような、蚤の市で掘り出し物を探すような楽しみが有る場所であって欲しいと思っています。
 

 

 

  

 

 

 

 

―それでは話しを変えて、お宅のことを伺いたいと思います。この家、エントランスからとても良い雰囲気だったんですけど、気に入ったポイントを教えてください。

 

小林さん)『OUTBOUND』の物件が見つかったことで自宅探しは中断していたのですが、不動産屋さんから面白い物件があると紹介してもらったのがこの家でした。住所を聞いてグーグルのストリートビューで見たら冬の写真だった為か、荒涼としていて。大丈夫かなという印象だったんです。ただせっかくなので内見をしたら、玄関に作り付けのクローゼットがあって結構良いなと思って。2階に上がったら部屋に気持ちの良い光が入っていて、そこで新生活のイメージが湧いたんです。最初は木の壁の家に住むというイメージは無かったのですが、とにかく居心地が良くて。サッシも木だし、全体的に残念だなと思う要素が本当に少なくて気に入って入居を決めました。木に見えるところはきちんと木を使っているし、良い具合に馴染んだ古着みたいな良さを感じていて。しばらくはここで生活したいなと思っています。

 

―家の中で好きな場所とか過ごす時間を教えてください。
 

小林さん)朝の6時ぐらいにリビングに良い光が入ってきて。椅子に座っていると落ち着きますね。横から光が入ってくるというのが自分にとっては心地良いのだと思います。

 

―自宅で使っているものや飾っているものとお店で選んで飾っているものとで、選ぶ基準の違いとかありますか?
  

小林さん)そんなに違いはないですけど、店の商品に関しては妥協したくない(笑)。どうしてもまず店という意識があって、今は買い付けてきたものを家にも置いてますけど、ちょっと前まではもったいないというか、それだったら店を充実させたいという気持ちが強かった。今は店主のプライベートの充実というのがまずあって、店はそのフィードバックであるべきなんじゃないかと思うようになりました。今後はどんどん積極的にこういうものを自分の暮らしにきちんと取り入れていこうと思っています。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

―お店のテイストではないけど、自宅では愛着があって使っているものはありますか?

 

小林さん)以前ベルリンの蚤の市で買い付けてきたランプ。『Roundabout』に飾ったらすんなりと入らなくて、しばらく寝かせていたんです。そしてここに引っ越して使ってみたらしっくりきて、そういうこともあるんだなと。所謂デザイナーものをただ有名だからと置いている状態というのは、ブルーノ・ムナーリの言葉じゃないですけど単なる「記号のデパート」になってしまうでしょうし、そういう店は全く興味を覚えないですね。やっている人の視点とか切り口が匂わないとどうしても共感出来る余地を見付けられないです。著名なデザイナーものがありつつアノニマスなものがあったり。或いは、逆に特定の時代や一人のデザイナーへの偏愛でも、店主の編集眼が感じられるお店が良いですね。

 

―本当に仕事好き(笑)。まあ好きなことが仕事になっているんでしょうが。

 

小林さん)たぶん仕事辞めたらボケると思うんですよ(笑)。そして死んだらお店に・・・。
 

―化けて出るんでしょ。「そこのディスプレイは違う~」って。浮遊霊が店に。今でも小林さんが居ない時にお店に行くと、小林さんの匂いがプンプンしてます(笑)。
 

小林さん)そういう風に言われるのが1番嬉しいです。これからも自分の匂いをお店に立ち込めていきたいですね(笑)。
 
  

 

 

 

 

 

―もの選びやディスプレイする際に参考にているものやこと、人はありますか?
  

小林さん)洋書を眺めるのは好きなので何かしら影響を受けていると思います。この「JOSEPH BEUYS(ヨゼフ・ボイス)」のインスタレーションとか。この本「KURT SCHWITTERS(クルト・シュヴィッタース)」もそうですね。音響詩やインスタレーション、コラージュをやっているドイツのダダイストなんですけど。

 

―異なるものや要素を組み合わせるとか、そういう感覚ってことですよね。
 

小林さん)やっぱり私のテーマは「収集と陳列」なので。
 

一同)(笑)。イデーの家具のスタイリングテーマもそうでしたね。

 

小林さん)ドイツのダルムシュタットのヘッセン州立美術館で常設展示されている「Block Beuys(ブロック ボイス)」というヨゼフ・ボイスのインスタレーションがあって。その影響もあって『OUTBOUND』に置いてある大きいショーケースをオリジナルで作ってもらったんですけど。この人の思想というよりは、インスタレーションに使用される素材が持つ物質感に惹かれます。

 

  

 

 

 

 

 

 

―小林くんの世界観を感じますね。
 

小林さん)このシェーカー教徒の本もですかね。彼らによって作られた物も、置かれ方も好きですね。

 

―実際にシェーカーヴィレッジへ行ったことあるんですか? 
 

小林さん)無いですね。シェーカー教徒の人びとのエキセントリックな面に興味はありますが。当時の集会の激しい踊りとかも見てみたい気もします。絵画でいうと「Vilhelm Hammershoi(ヴィルヘルム・ハンマースホイ)」も好きです。惹かれる要素としては誰もいない部屋の不在感や静寂。そして窓から差し込む横からの光とか。『OUTBOUND』の内装設計を建築家であるNIIZEKI STUDIOの新関謙一郎さんにお願いした際は、この画家やフェルメール、モランディなどの作品集を観て頂き、イメージの共有を計りました。
 

―ネタを探すというよりは、好きで見ていくうちに脳裏にインプットされているという感じですね。 
 

小林さん)『Roundabout』のオープン直後は、本当はこうしたいという漠然としたビジョンがありながらも、現状の品物ではどうやっても思い描いている画には近づけなかったんです。それでも夜な夜なディスプレイ替えを繰り返しやったことが良いトレーニングになっていたのかもしれません。無意識的な反復練習ですね。自分の中で違和感を感じるか、心地良く落ちるかという部分で判断します。それは今でも変わらないです。置いたり引いたりの繰り返しですね。

 

 

 

 

 

 

 

 ―じゃあ、次にこういう家に住みたいとか住んでみたい場所はありますか?

 

小林さん)親ともう少し近い場所に住むのが理想だなと子供が生まれてから感じます。家を持つかどうかという事では自分の希望が設計の段階で反映された空間に住みたいという気持ちと、一方で震災以降は、家を持つことが不自由さに繋がってしまうのではないかという相反する気持ちが同居していますね。今までは、将来は自分の所有する家が欲しいと思ってはいましたけど、違う考え方もあるんじゃないかと思い始めたのも事実です。

 

―震災を経験して、「暮らす」ということに対して改めて考えるきっかけになっていますよね。実は私も同じように考えていました。
それでは最後に今後の予定や次やりたいことなどあれば教えてください。

 

小林さん)スタイリングの仕事、リニューアルした「POPEYE」での連載、他に新潮社の「考える人」でも少し書かせて頂いたんですけど、そういう課外活動もやっていきたいです。それと同時に一番大事な店も。何年越しの懸案事項もいくつかあって、もうちょっとスタッフが働きやすい環境にしたいなと思っていたりとか、『Roundabout』は夏が過ぎて14年目に入りましたし、そろそろまた模様替えもしたいと考えています。他にも、伊藤ゴローさんやツキノワの皆さんと前にやっていたような、店内でのライブイベントもいずれまた是非やりたいです。
 

―『Roundabout』の模様替えもイベント楽しみです。ぜひイベント参加させてください。今日はありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

インタビュー後も話は続き、以前イデーのグループ展に参加したことや短期アルバイトをしたこと、買付けの企画についてなどで盛り上がり、かなりのロングインタビューとなりました。初めて聞く話も多く、改めて小林さんの魅力を感じた時間でした。更なる今後の活躍が楽しみです。

 

 

プロフィール

小林和人
1975年、東京都生まれ。幼少期をオーストラリアとシンガポールで過ごす。
1999年、多摩美術大学卒業後、国内外の生活用品を扱う店 Roundabout(ラウンダバウト)を吉祥寺にて始める。
2008年には、やや非日常に振れた品々を展開する場所 OUTBOUND(アウトバウンド)を開始。
両店舗の全ての商品のセレクトと店内のディスプレイ、年数回のペースで開催される展覧会の企画を手掛ける。
スタイリングや執筆の仕事も少々。著書に『あたらしい日用品』(マイナビ)がある。
http://roundabout.to/ 

http://outbound.to/

http://book.mycom.co.jp/book/978-4-8399-3968-7/978-4-8399-3968-7.shtml 

 
写真:三部 正博さん
Photo: Masahiro Sanbe

1983年 東京都生まれ。
東京ビジュアルアーツ中退後、写真家泊昭雄氏に師事。
2006年 フリーランスとして活動開始。
www.3be.in