File No.001
-
Interview:
Eriko Kawabuchi,
Tadatomo Oshima
-
Photo:
Masahiro Sanbe


Share> facebook   twitter

カワニシ タカヒさん 『圧倒的物量のアトリエ、究極のシンプルな暮らし』
Takahi Kawanishi
Artist, Setagaya, Tokyo
2011.7.20
 
 
梅雨の間のまるで真夏のような晴れた日。アーティストとして東京を中心に活動を行うカワニシタカヒさんの工房兼自宅にうかがった。世田谷の閑静な住宅地の一角にある築35年のヴィンテージマンション、そこでカワニシさんはファッションブランドのプレスである奥さまと二人で暮らしている。机上での制作を中心としたスペースとスプレーや化学薬品などを使うドライルームに分かれた、圧倒的な量の画材に囲まれた2つのアトリエと、本当に必要なものだけが置かれたシンプルなリビングルームの対比が印象的だ。Tシャツにジーンズ、キャップ姿のカワニシさんは自然体で、インタビューは笑いの絶えない楽しい一時となった。
 
 
 
 
 
 
 
-絵を描き始めたきっかけについて教えていただけますか?
 
父親が電車の車輌などの設計士をしていて、当時CADなんか無くドラフターに向かってトレッシングペーパーの上に細かく縦横の線ビッチリに設計された図面などをみて、幼心に息苦しく感じちゃって、自分は真逆なモノを描きたいと思い、自由な線のイメージが強かった絵をスーパーなどのチラシの裏などに描きまくっていたのがきっかけといえるかな。
 
-アーティストになろうと思ったのは?
 
今だにアーティストというものがなんなのかよく自分でも解んない。言ってしまえば俺は今日からアーティストだっていえば誰でもなれるし。ただ自分の場合は、何かを創ることが人よりも少しだけ好きで、物事に対しての視点が人より少しだけずれていて、そして描くことを続けている。そういう少しずつの積み重ねが今の自分なだけで、そうやってちょっとずつアーティスト?と言われるものになろうとしているのかもしれない。
 
-描くうえで誰かの影響を受けましたか?
 
大学に入って間もなく授業も出ずに学校の図書館で1970年〜90年代のイラストレーターや画家を調べていた時期はあるけど、結局自分の絵やスタイルも無いのに他のアーティストを知ってもあまり意味が無いと思い、それ以来必要以上の検索はやめたんです。人からはもっとよく知った方が良いとか勉強不足とか言われるけど、知識の張り合いや、俗的な情報という意味合いだけだったら個人的には必要が無いかなと思っている。極端にいえば生きているだけでいいも悪いもすべてに対してなにかしら影響を受けていると思うし、それをコントロールできるほど器用ではないから、今は自分なりに分かりやすくしているのかもしれません。
 
-お父さまの影響を受けているのでは?
 
作品を見てもらうとわかるんですが、絵に直線を突発的に入れることがあって、そのあたりなんかは幼少期に父親の仕事を見ていた影響はあるのかもしれません。(沢山の細い線で拳銃を描いた作品と、直径5cmぐらいのボールペンの芯の束を見せながら)この作品は、方眼紙の上にボールペンで書いた作品になりますが、0.1mmから1.6mmの太さのボールペンを20本ぐらい使いきって描き上げました。こういうものを見ると、設計士だった父親の血を受け継いでいるのかもしれないですね。
 
 
 
 
 

-(種類もさることながら、マスキングテープが50個以上、古いタイプライターが5台以上といった感じでモノが並んでいるのを見て)アトリエには夥しい数の画材やモノがありますが、蒐集癖がある方でしょうか?

習癖家に見えるけど、あまりモノに執着はしない。できれば何も持たずに暮らすことが理想だし、シンプルに物事に対して向き合いたいしね。画材などに関しても断片的な見方をしてなくて、絵を描く道具という意味合いだけでは捕らえてなく、ただ存在が心地良かったり見た目がカッコイイものがたまたま画材だったりして、気付いたらこれだけ集まっていた。(箱に詰められた風合い豊かな素材の束を見せながら)これは昔使っていた財布の革、そしてこれは靴。いろいろバラしてとってあるんだ。あとこれはホープの空箱を分解したもの、50枚以上あるかなあ。味があって面白いし、何かのときに作品で使ったりするし、なによりカッコイイよね。
 
-いらなくなったモノを集めるのは子供のころからでしょうか?
 
確かに子供の頃は変なモノばっかり拾ってきて親によく怒られていた(笑)。昔から人が必要としないものに興味を持っていたかもしれない。人が魅力を感じなくなったものに価値を見出して、集めてしまおうという習慣はあったかな。この家にあるものは、その類のものも多い。ただあまりそれに対しての所有欲というのは無いけどね。
 
-モノ選びの基準は?
 
機能性、利便性とかはあまり考えず、自分の感覚に引っかかるものだけをピックアップする。出来上がったもの完成されすぎたものよりはバランスが少し崩れているぐらいのほうが好きで、そこに魅かれます。完成されたフォルムの美しいものや小洒落たものより、そのほうが多角的な要素が多いと自分は感じちゃうかな。
 
-ちなみに最近買って気に入っているものはありますか?
 
(古びた箱を開けながら)クリップと書いてあったから買ったら実物はクリップでは無かった。120個入りで5箱、計600個で1,000円。困った事に何にどう使えばいいか今わかんないけど実用新案登録中って書いてあるなあ。気に入っているというよりもこの鉄屑が気になる(笑)。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 -(アトリエからダイニングに場所を移して)ところで、こちらにはいつからお住まいですか?
 
2年ぐらい前から住んでいます。以前住んでいたアパートは築30年ぐらいの木造アパートで日当りも良くなかったので、結婚を機に日当りと風通しが良いこのマンションに引越してきました。前のアパートには怪しげな女とか住んでいて、それ風の人が出入りする映画的なところだったかな。
 
-東京に来たのはいつですか?
 
1999年。卒業したら海外に出ようと思っていたけど、昔と違い安易に海外に行けるし、行けば何とかなるっていう風潮に違和感が当時あったので、まず日本の中心?と言われている東京を体感しようと思い来たはいいけど、なんだかんだでそのままズルズル住んでしまっている。井の中にいつまでもいてはダメだね、、、精進せねば。
 
-一日の過ごし方について教えていただけますか?
 
よく聞かれるんだけど、、、二次的な日々の事柄に追われて本質的なところを見失うのが嫌で自分の好きなように過ごしていますよ。毎日死に物狂いで絵を描いてるって言いたいところだけど全然違って。天気のいい日中なんかは部屋にいるのが苦手で、あてがなくてもどうしても外に出ちゃうかな。家の中にいるときは無駄に家にあるいろんなものをいじっている。(棚にぎっしり並んだ絵の具の瓶を並べ替える仕草)。制作でいえば何もやってない時間が何かにつながることもあれば、逆に一般的に素敵な過ごし方が意外にマイナスに働いちゃう事もあるし。まあプラスもマイナスも職業柄必要なことなんだけどね。一日の時間というものに対して大切に向き合ってはいるつもりだけど、大事に過ごしているかって言われるとまだまだできてはないと思う。
 
-音楽はどんなのを聴くのですか?
 
何でもっていうと音楽に興味がないように思われちゃうけど、音自体がすきなのであえてジャンルはこだわらない幅広く聴いています。パンクからアンビエント、実験音楽から演歌まで。自分が何か惹かれるものだけを聴いています。
 
 
 
 
 
 
 
 
-アトリエ以外のお部屋は極めてシンプルにまとめてらっしゃいますが、カワニシさん、奥さまそれぞれ趣味をどう反映させてらっしゃるのですか?
 
住居という面で言えばほとんど完全に奥さんの趣味が勝ってます。それでいいと思っているし、趣味は真逆なので完全に任せているけど、以前はまったく興味を持っていなかったアンティークのテーブルを取り入れたりと、奥さんに影響を与えている部分も少しはあるかもしれない。
 
-ファッションブランドのプレスという奥さまの職業柄、沢山モノがあるというイメージを持っていたのですが、本当にシンプルな暮らしぶりですね。
 
ものすごくシンプルな人だから、必要ないと思ったら捨てる。余分なものが嫌い。よく仕事で海外に行くのだけど、好きなものは向こうで買って帰ってきているようだし、必要であったとしても妥協せずにイメージしたものが手に入るまで買わない。無駄なものを持たないという面で、結果シンプルになっているのかもしれませんね。
 
-インテリアは奥さまにお任せということですが、毎日のなかで大切にしている時間は?
 
基本過ぎるかもしれないけど、あえて寝る時間。あとは食べる時間。寝たいと思った時に寝たいし、食べたいと思ったときに食べたい。その次ぐらいに絵を描く時間ですかね。
 
-寝るにあたってのこだわりは?
 
特にないけど、お風呂に入ってから寝られればいい。平らなところで寝られればいい。あえていえば枕は欲しい!
 
 
 
 
 
 
 
-食べることへのこだわりについて聞かせてください。
 
体に悪いものを定期的に入れたい。奥さんが食にこだわりのある人なんだけど、良いものばかりを体に入れていると免疫が弱くなると思っちゃうから。ジャンクなものを入れることで、美味しいものの良さを改めて実感する。これは食だけではなく全てに言えることだと思うけど、良いものと悪いものをバランス良く受け入れていくことが必要だと思う。
 
-カワニシさんの作品は圧倒的な手作業によるので、体の状態と直接的に繋がっていると思いますが?
 
絵描きの前に1人の人間なので、基本的な事を大切にしている。体だけではなく心もそうだけど、心身のどちらかは充実した状態で無いと人に何かを感じとってもらう事は難しいかな。
 
-最後に絵は一生のライフワークですか?
 
そうだね。昔は絵を武器にその先にいろいろとやりたいことがあったけど、まだモノにもできてないから武器になんてなりようがないし。ここまできたら一生かけて向き合います!たぶん(笑)。
 
 
 
 
終始ノリよくインタビューに応じてくださったカワニシさん。何事にもとらわれずに生きていこうとする独特の軽やかさは、作品に表れる圧倒的な仕事量が醸し出す重量感と対照的でした。沢山の画材や拾われてきたモノが所狭しと並べられたアトリエもまた、雑然としているなかに、独特のセンスが見え隠れする収納上級者の一面も。独特のバランスのなかで生まれるカワニシさんの創作活動に引き続き注目です。
 
 
プロフィール
画家。東京都在住。「絵は色のつくものと面さえあれば成り立つ」をモットーに、 国内外の展示を主にし、ジャンルを問わず幅広く活動しながらも作品そのものに重きをおく。
www.kawanishitakahi.com
 
写真:三部 正博さん
Photo: Masahiro Sanbe

1983年 東京都生まれ。
東京ビジュアルアーツ中退後、写真家泊昭雄氏に師事。
2006年 フリーランスとして活動開始。
www.3be.in